朝銀信用組合 破綻問題

朝銀信用組合

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/21 16:26 UTC 版)

破綻問題

破綻原因

破綻の主な原因としては、預金の北朝鮮への送金、同じく朝鮮総連の政治工作資金としての流用、バブル崩壊の三点が指摘されている[12]

まず、民族系金融機関として指摘されてきた不明朗な融資姿勢がある。例えば、2001年12月に経営破綻した朝銀近畿信用組合(本店は神戸市)の場合、後に金融整理管財人により破綻原因の調査結果が金融庁に報告された。管財人は破綻要因を「合併前の一部組合が不動産関連を中心に与信限度額を大幅に超えた融資をしていたため」と述べた[13]

また、朝鮮総連との関係も破綻原因のひとつとされる。例えば、1999年5月に経営破綻した朝銀東京信用組合では、資金流用疑惑が発覚したさいに朝鮮総連中央本部に強制捜査が入り、同・元財政局長(中央常任委員)の逮捕へと発展するなど、2004年3月までに各朝銀信用組合で25人以上の朝銀役職員が逮捕され、150人以上が取調べを受けた[1]。朝鮮総連は朝銀に対して、企業や個人への融資の一部を寄付させたり、仮名口座や架空口座への無担保融資や追い貸しを繰り返して資金調達するケースが増えていたとされる。この背景には、これまで法人格のない任意団体の朝鮮総連は在日朝鮮人らの寄付金などで運営費を賄ってきたものの、バブル崩壊や若年層を中心とした組織離れもあり寄付額が激減したため、朝鮮総連はその影響下にある全国の朝銀信組に資金のねん出を要請したとされる。重村智計拓殖大学教授(当時)は、「朝銀信組は朝鮮総連の財政基盤を支える資金調達機関へと変質した」と指摘している[14]。さらに、こうした朝鮮総連の指揮による不正融資は北朝鮮へ不正送金され、核開発や200基に及ぶノドン対日弾道弾調達の資金源に流用され、一部は政治献金として日本の政治家にばら撒かれたとの主張もあった[12]。さらに、後に発生する朝鮮総連本部ビル売却問題では、朝銀の乱脈経営と朝鮮総連との関わりの一部が司法にて認定されている。

こうした朝銀の不明朗な経営姿勢に対して、金融当局の民族系金融機関に対するタブー視や、「2000年まで信用組合の監督・検査を都道府県にゆだね、朝銀のような機関の経営に目配りできずにいたことも、破綻の影響を拡大させた要因」とされている[15]

公的資金反対論

破綻した朝銀では、保守派ジャーナリスト櫻井よしこ小池百合子衆議院議員[16][17]前原誠司衆議院議員(民主党[18]らから、朝鮮総連を隠れ蓑にする朝鮮労働党統一戦線部直属の在日組織「学習組」を通じた北朝鮮との関係が指摘され、金融庁は受け皿信組の認可に際して朝鮮総連の関係者を経営陣から排除するよう指導・確約を取り、実際に一部の朝銀では日本人役員が登用された。しかし2002年4月には、受け皿の信組と北朝鮮の結びつきを疑う声が広がり、公的資金が北朝鮮へ不正に送金される懸念が生じた。2002年4月23日、五十嵐文彦衆議院議員(民主党)は衆議院財務金融委員会の席上、受け皿信組を「北朝鮮の金づるではないか」と指摘し、受け皿信組に朝鮮総連の役員、幹部が入ることは排除されなければならないと述べた[19]

公的資金投入

しかし、野中広務の鶴の一声できまったとの証言も出るなど[20]、かねてから親北朝鮮議員が、公的資金投入に影響力を行使したとする見方があった[21]。また、先述の朝鮮総連中央本部へ強制捜査に際しては、2001年11月8日、社民党金子哲夫衆議院議員と渕上貞雄参議院議員の2人が同中央本部副議長ら総連側6人と共に警察庁を訪問し、「総連に対する強制捜査は不当な政治弾圧」という決議文を手渡す[22]などを行っていた。

また、そもそも朝銀信用組合の預金は付保預金として預金保険に加入しており、預金保護を目的とした公的資金の投入をしない選択肢は難しかった。当時の金融庁は「朝銀信組も預金保険法上の金融機関であり、預金者の保護は必要」(村田吉隆内閣府副大臣)との立場をとり[19]、仮に認可を取り消せば公的資金を入れる対象が宙に浮き、初のペイオフ(預金保険金直接支払)の可能性すらあったとされる[15]。結局、破綻処理のため、投入された公的資金の総額は1兆4千億円に上ったが、公的資金が投入されながら、受け皿となった組合がさらに破綻する二次破綻を起こした例もあり、公的資金投入の杜撰さが問題視された。

また、投入された時期に海外送金の財務省への報告義務が500万から3,000万に緩和されており[23][24]、不正送金へ協力の一部政治勢力と行政の結託が疑われている。投入時期と同時に、金融整理管財人が置かれない期間が1年存在し、不正送金の疑惑の的となっている。これらの疑惑に対し、金融庁は捜査権限がないので限界があると回答している。[25]

なお、破綻処理に関しては金融再生委員会が金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を行った[26]。金融整理管財人としては弁護士公認会計士、金融実務家が預金保険機構の命令(会社謄本の記載から)にて各信用組合毎に2、3名が振り分けられた。ただし、朝銀東京に限り弁護士1名と法人としての預金保険機構の両名の構成となった。

下記の表は、2016年(平成28年)3月現在の破綻処理に関する公表資料による。

朝銀信用組合の破綻処理
破綻先 事業譲渡先と救済費用(億円)
破綻日 金融機関 実施日 金融機関 預金者保護贈与金 資産買取
1997年5月14日 朝銀大阪信用組合 1998年5月 朝銀近畿信用組合※1 2,624 476
1999年5月12日 朝銀長野信用組合 2002年12月 ハナ信用組合 103 15
1999年5月13日 朝銀千葉信用組合 325 31
朝銀東京信用組合 2,109 210
朝銀新潟信用組合 51 6
朝銀島根信用組合 2001年11月 朝銀西信用組合 14 2
1999年5月14日 朝銀広島信用組合 156 40
朝銀山口信用組合 577 100
朝銀福岡信用組合 848 95
朝銀長崎信用組合 9 1
朝銀青森信用組合 2001年11月 朝銀北東信用組合 18 7
朝銀宮城信用組合 48 7
朝銀福井信用組合 2001年11月 朝銀中部信用組合 38 12
朝銀愛知信用組合 885 205
2000年12月29日 朝銀近畿信用組合※1 2002年8月 兵庫ひまわり信用組合など※2 2,571 622
2001年8月24日 朝銀関東信用組合 2002年12月 ハナ信用組合 1,067 180

※1については、後に二次破綻に至った金融機関。

※2、兵庫ひまわり信用組合・ 京滋信用組合・ ミレ信用組合・ 整理回収機構。


  1. ^ a b 総連第20回全体大会に向け知ろう総連の歩み (34) - 朝鮮新報(2004年4月1日付)
  2. ^ 【総連事件】「総連から金をだまし取ろうと企てた」 緒方被告に懲役2年10月執行猶予5年、満井被告は懲役3年執行猶予5年 - 産経新聞(2009年7月16日付)
  3. ^ 【朝鮮総連事件】猶予判決を不服として検察側が控訴 - 産経新聞(2009年7月24日)
  4. ^ 【朝鮮総連事件】元公安調査庁長官・緒方被告が控訴 - 産経新聞(2009年7月28日)
  5. ^ 梁貞兒 在日本朝鮮人総連合会、中央本部が差し押さえの危機 - デイリーNK(2010年6月30日付)
  6. ^ 朝鮮総連本部の差し押さえ認めず 最高裁、整理回収機構の上告を棄却 「資産証明あれば可能」 - 法と経済のジャーナル(Asahi Judiciary、2010年07月21日付)
  7. ^ 総連 本部競売逃れ失敗 5月全体大会、初の中止 産経新聞
  8. ^ 朝鮮総連本部来月12日から入札受け付け日テレnews24
  9. ^ 「朝銀処理、公的資金100億円拡大か」(朝日新聞、2006年6月25日付)
  10. ^ a b (株)共同開発〜破産手続開始決定 - 東京経済ニュース大型破産情報@Nifty(2010年2月24日付)
  11. ^ 旧在日朝鮮信組協会系ノンバンクが破産手続き開始決定 - 産経新聞(2010年2月23日付)
  12. ^ a b 第154回国会衆議院外務委員会会議録 第19号佐藤勝巳参考人答弁) - 衆議院2002年6月12日)
  13. ^ 日本経済新聞(2001年6月23日付)
  14. ^ 日本経済新聞(2001年11月29日付)
  15. ^ a b 日本経済新聞(2002年4月24日付)
  16. ^ 第145回国会衆議院大蔵委員会会議録 第16号小池百合子議員質疑) - 衆議院1999年7月6日)
  17. ^ 理由なき「朝銀救済」を糾す! - 小池百合子コラム(1999年8月付)
  18. ^ 第154回国会衆議院安全保障委員会会議録 第3号前原誠司議員質疑) - 衆議院2002年3月28日)
  19. ^ a b 第154回国会衆議院財務金融委員会会議録 第13号五十嵐文彦議員質疑) - 衆議院2002年4月23日)
  20. ^ 朝銀疑惑の究明を - 佐藤勝巳(『現代コリア』1999年7月号掲載論文)
  21. ^ 日朝交渉推進の背景 - 佐藤勝巳(『現代コリア』1999年12月号掲載論文)
  22. ^ 産経新聞(2001年12月22日付)
  23. ^ 2003年、外国貿易法第五十五条第一項の支払等報告書の提出義務が緩和された疑惑のこと
  24. ^ 第162回国会予算委員会第12号(2005年2月15日)での原口委員の質疑など。
  25. ^ 第155回国会予算委員会第2号(2002年10月24日)での原口委員の質疑など。
  26. ^ 金融再生委員長談話 - 金融再生委員会/金融庁2000年12月29日付)
  27. ^ 協同組合による金融事業に関する法律施行令 第2条 - e-Gov法令検索
  28. ^ 協同組合による金融事業に関する法律 - e-Gov法令検索
  29. ^ 【活躍する人権協会会員】●インタビュ- 崔東渉(公認会計士) - 『人権と生活』(在日本朝鮮人人権協会会報、第11号、2001年1月)
  30. ^ 2009年度ディスクロージャー誌 (PDF) - イオ信用組合(2010年)
  31. ^ 2009年度版ディスクロージャー誌 (PDF) - ハナ信用組合(2010年)
  32. ^ 兵庫ひまわり 第9期 DISCLOSURE (PDF) - 兵庫ひまわり信用組合(2010年7月26日付)
  33. ^ 2010 DISCLOSURE (PDF) - ミレ信用組合(2010年)
  34. ^ 2010年ディスクロージャー誌「めぐる季節、お客様とともに」 (PDF) - 京滋信用組合(2010年)





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